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なぜ人は罪を犯すのか子ども時代のつらい経験は非行につながるのか。逆境1つごとに約35%高まるリスクと、運命ではない理由

「つらい家庭で育つと非行に走る」という言い方を耳にすることがあります。子ども時代の虐待やネグレクト、家庭の混乱は、本当にのちの非行と関係するのでしょうか。研究からは、はっきりした関連と同時に、その数字をどう読むべきかという注意点も見えてきます。
SUMMARY
- 米国の研究をまとめた系統的レビュー(11研究)では、逆境体験の点数が1点上がるごとの司法との関わりのオッズ比は0.91〜1.68で、点数が高いほど関わりが増える傾向があった。
- 米国フロリダ州の非行少年2万2,575人の分析では、逆境が1つ増えるごとに、重く暴力的な非行を繰り返す少年になるリスクが約35%高まった。
- 37研究・25万人超のメタ分析では、逆境を4つ以上経験した人は、ない人に比べて、他者や自分への暴力のオッズが7倍を超えていた。
01どんな心の仕組みが働いているのか
子ども時代の逆境体験(ACE)とは、虐待やネグレクト、家庭内暴力の目撃などのことです。逆境が重なるほど、心と行動への影響が積み重なると考えられています。
逆境体験は英語でAdverse Childhood Experiencesと呼ばれ、頭文字でACEと略されます。もとは医学の分野で、子ども時代の逆境がおとなになってからの健康にどう影響するかを調べるために作られた考え方です。経験した逆境の種類を数えて点数にするのが特徴です。
逆境が重なると、強いストレスが続き、感情を落ち着かせる力や人を信頼する力が育ちにくくなると考えられています。犯罪学の研究者は、この点数が非行のリスクとも関係するのではないかと考え、調べ始めました。
02研究でわかっていること
逆境の点数が高いほど、非行や司法との関わりが増える「量と反応の関係」が、複数の研究で見られています。
Foxら(2015)[1]
米国フロリダ州の少年司法機関に送られた2万2,575人の記録を分析した。他の犯罪の危険因子を考えに入れても、逆境が1つ増えるごとに、重く暴力的で非行を繰り返す少年になるリスクが約35%高まった。研究者は、逆境の点数を早めの気づきに使えると提案している。
対象: 非行で司法機関に送られた少年 / 限界: すでに非行があった少年の中での比較で、一般の子どもとの比較ではない。
Grafら(2021)[2]
逆境体験と司法との関わりを調べた米国の研究を系統的レビュー(決まった手順で研究を集めて評価する方法)でまとめた。11研究のうち10研究は少年が対象だった。逆境の点数が1点上がるごとのオッズ比は0.91〜1.68で、点数が高いほど司法との関わりが増える傾向があった。
対象: 米国の観察研究11本 / 限界: 多くは司法と関わった少年が対象で、追跡は思春期から成人初期まで。
Hughesら(2017)[3]
37研究・25万3,719人をまとめたメタ分析。逆境を4つ以上経験した人は、ない人に比べてすべての健康上の問題のリスクが高かった。中でも、他者や自分への暴力と薬物の問題は、オッズ比が7を超えて最も強かった。
対象: 18歳以上の一般の人々 / 限界: 研究ごとの結果のばらつきが大きい項目が約半数あった。
03よくある思い込みと、研究が示す実際
逆境は非行のリスクを高めますが、運命ではありません。数字は「起きやすさ」を示すもので、一人ひとりの将来を決めるものではありません。
04日常で生かせる視点
非行のニュースの裏にある、子ども時代の経験に目を向けると、責める以外の見方ができるようになります。
- 少年事件の報道では、本人の行動だけでなく、どんな環境で育ったかという背景にも思いをめぐらせる。
- 裁判員として生い立ちを聞くときは、罪を軽くする言い訳とだけ見ず、行動を理解する手がかりとして受け止める。
- つらい経験をした身近な人を「将来が心配な人」と決めつけず、信頼できるおとなとして関わり続ける。
05よくある質問
逆境体験(ACE)とは何ですか
子ども時代に経験する虐待、ネグレクト、家庭内暴力の目撃などのことです。経験した種類の数を点数にして使います。
逆境を経験すると、必ず非行に走りますか
いいえ。研究が示すのはリスクが高まるという確率の話です。逆境を経験した人が、みな非行に至るわけではありません。
わかっていないことは何ですか
多くの研究は米国の少年が対象で、追跡も成人初期までです。日本での状況や、どんな支えがリスクを下げるのかは、まだ十分にわかっていません。
SOURCES
- Fox, B. H., Perez, N., Cass, E., Baglivio, M. T., & Epps, N. (2015). Trauma changes everything: Examining the relationship between adverse childhood experiences and serious, violent and chronic juvenile offenders. Child Abuse & Neglect, 46, 163-173. https://doi.org/10.1016/j.chiabu.2015.01.011
- Graf, G. H.-J., Chihuri, S., Blow, M., & Li, G. (2021). Adverse Childhood Experiences and Justice System Contact: A Systematic Review. Pediatrics, 147(1), e2020021030. https://doi.org/10.1542/peds.2020-021030
- Hughes, K., Bellis, M. A., Hardcastle, K. A., et al. (2017). The effect of multiple adverse childhood experiences on health: a systematic review and meta-analysis. The Lancet Public Health, 2(8), e356-e366. https://doi.org/10.1016/S2468-2667(17)30118-4


