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なぜ人は罪を犯すのか子どものころの鉛が犯罪を増やしたのか。「鉛と犯罪」仮説を24件の研究で確かめると

かつて身の回りに多く使われていた鉛が、子どもの脳に影響し、のちの犯罪を増やした。そして鉛が規制されたことで犯罪が減った。そんな「鉛と犯罪」仮説が話題になってきました。研究をまとめると、どこまで言えるのでしょうか。
SUMMARY
- 24件の研究から542の推定値をまとめたメタ分析では、鉛は犯罪を増やす方向に働いていた。ただし、出版バイアスのため効果は大きく報告されすぎていた。
- 同じメタ分析では、米国の殺人の減少のうち鉛の減少で説明できるのは7〜28%と推定された。
- ニュージーランドの553人を38歳まで追った研究では、11歳時点の血中の鉛と有罪判決の関係は弱かった。
01どんな心の仕組みが働いているのか
鉛は神経に害を与える物質です。子どものころに多く取り込むと、脳の発達を通じて行動に影響するのではないかと考えられてきました。
鉛は神経に害を与えることがよく知られた物質で、古い住宅などに残っていることがあります。そこで、子どものころに鉛を多く浴びた人は、のちに犯罪をしやすくなるのではないかという仮説が生まれました。
ただし、この関係を調べるのは簡単ではありません。鉛を多く浴びやすいのは、古い住宅が多い地域など、経済的に厳しい環境の子どもです。経済的な厳しさは、それ自体が犯罪とも関係します。そのため、鉛の影響と貧しさの影響を切り分けることが難しいのです。
02研究でわかっていること
鉛は犯罪を増やす方向に働くと考えられますが、その大きさは控えめです。犯罪の減少の大部分を説明するものではありません。
Higneyら(2022)[1]
鉛と犯罪の関係を調べた24件の研究から、542の推定値をまとめた初めてのメタ分析。鉛は犯罪を増やしていたが、出版バイアス(目立つ結果ほど発表されやすい偏り)のため、効果は大きく報告されすぎていた。米国の殺人の減少のうち、鉛の減少で説明できるのは7〜28%と推定された。
対象: 24件の研究 / 限界: 犯罪の減少の大部分は鉛では説明できず、ほかの要因は別に調べる必要がある。
Wrightら(2008)[2]
米国シンシナティの古い住宅が多い地域で生まれた子どもを追い、19〜24歳の250人を調べた。6歳時点の血中の鉛が5μg/dL高いごとに、逮捕の発生率は1.27倍、暴力犯罪での逮捕は1.48倍だった。
対象: 米国の1都市の250人 / 限界: 1都市の、鉛で汚れた古い住宅が多い地域に限られる。
Beckleyら(2018)[3]
ニュージーランドで1972〜73年に生まれた553人を38歳まで追った。この集団では、鉛の量と家庭の経済状況がほとんど関係していなかった。11歳時点の血中の鉛と有罪判決の関係は弱く、鉛の量で有罪になる人とならない人を見分ける力も低かった。
対象: ニュージーランドの553人 / 限界: 1つの国の1つの世代に限られる。
03よくある思い込みと、研究が示す実際
「鉛の規制で犯罪が激減した」は言いすぎです。関係はあっても、説明できるのは一部です。
04日常で生かせる視点
1つの原因で社会の変化を説明する話には、慎重になる視点が役立ちます。
- 「〇〇のせいで犯罪が増えた」という話を見たら、ほかの要因で説明できる部分はないか考える。
- 裁判員として生い立ちの話を聞くときは、環境の影響は確率の話であり、個人の行動を決めるものではないと意識する。
- 子どもの環境の問題は、犯罪の予防だけでなく、健康の問題として考える。
05よくある質問
「鉛と犯罪」仮説とは何ですか
子どものころに鉛を多く取り込むと脳の発達に影響し、のちに犯罪が増えるという考え方です。鉛の規制で犯罪が減ったという主張もあります。
鉛は本当に犯罪を増やすのですか
24件の研究をまとめた2022年のメタ分析では、増やす方向に働くと結論づけられました。ただし効果は控えめで、過大に報告されてきた面があります。
犯罪の減少は鉛で説明できますか
同じメタ分析では、米国の殺人の減少のうち鉛で説明できるのは7〜28%と推定され、大部分はほかの要因によると考えられています。
SOURCES
- Higney, A., Hanley, N., & Moro, M. (2022). The lead-crime hypothesis: A meta-analysis. Regional Science and Urban Economics, 97, 103826. https://doi.org/10.1016/j.regsciurbeco.2022.103826
- Wright, J. P., Dietrich, K. N., Ris, M. D., et al. (2008). Association of Prenatal and Childhood Blood Lead Concentrations with Criminal Arrests in Early Adulthood. PLoS Medicine, 5(5), e101. https://doi.org/10.1371/journal.pmed.0050101
- Beckley, A. L., Caspi, A., Broadbent, J., et al. (2018). Association of Childhood Blood Lead Levels With Criminal Offending. JAMA Pediatrics, 172(2), 166-173. https://doi.org/10.1001/jamapediatrics.2017.4005


