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なぜ人は罪を犯すのか暮らしが豊かになったのに、なぜ犯罪は増えたのか。日常の行動パターンから犯罪を説明するルーティン・アクティビティ理論

「景気が良くなり、貧しい人が減れば、犯罪も減るはずだ」。多くの人がそう考えます。ところが1960年代の米国では、暮らしが良くなる一方で犯罪が大きく増えました。この矛盾を、罪を犯す人の性質ではなく、人々の日常の行動パターンから説明しようとしたのがルーティン・アクティビティ理論です。
SUMMARY
- 米国では1960〜75年に、強盗が263%、加重暴行が164%、殺人が188%増えた。同じ時期、都市の貧困層は1,130万人から830万人に減っていた。
- 同じ時期、朝8時に誰もいない世帯の割合は1960〜71年でほぼ1.5倍になり、住宅への昼間の空き巣が侵入盗全体に占める割合は1960年の16%から1975年の33%に増えた。
- コロナ禍の外出制限を調べた23か国27都市の分析では、犯罪は平均37%減った。強盗は46%、盗みは47%減り、殺人は14%減だった。
01どんな心の仕組みが働いているのか
犯罪が起きるには「罪を犯そうとする人」「狙われやすい対象」「守る人の不在」の3つが、同じ時と場所にそろう必要がある、というのがこの理論の中心です。
1979年に米国の社会学者コーエンとフェルソンが提案しました。それまでの犯罪学は、主に「なぜその人は罪を犯すのか」を問うていました。この理論は見方を変え、犯罪が起きる「状況」に注目しました。
たとえば共働きや一人暮らしが増えると、昼間に誰もいない家が増えます。持ち運びやすい家電が増えれば、盗まれやすい物も増えます。罪を犯す人の数が変わらなくても、3つがそろう機会が増えれば犯罪は増える、と考えたのです。
02研究でわかっていること
日常の行動の変化が犯罪の量を左右することは、歴史データとコロナ禍の「自然の実験」の両方で確かめられています。
Cohenら(1979)[1]
米国の1947〜74年の犯罪の推移を、人々の日常の行動の変化から説明した。家の外で過ごす活動が増えるほど犯罪の機会が増えると考え、女性の就労や一人暮らしの世帯の増加などをもとに指標を作った。予想どおり、住宅への昼間の空き巣が侵入盗に占める割合は1960年の16%から1975年の33%に増えた。
対象: 米国の全国統計 / 限界: 国全体の時系列データで、個々の犯罪の状況を直接見たものではない。
Prattら(2005)[2]
地域の特徴と犯罪の関係を調べた200以上の研究をメタ分析でまとめ、どの犯罪理論がどれだけ支持されるかを比べた。ルーティン・アクティビティ理論は「中程度の支持」だった。貧困や家族の崩れなどが重なる地域の不利の指標は、最も強く安定した予測因子の一つだった。
対象: 地域単位の研究 / 限界: 理論の検証に使われた指標が研究ごとに異なる。
Nivetteら(2021)[3]
コロナ禍の外出制限を、日常の行動が急に変わった「自然の実験」として分析した。23か国27都市で、犯罪は平均37%減った。強盗や盗みのように街で人と出会う犯罪ほど大きく減り、制限が厳しい都市ほど減り方が大きかった。一方、侵入盗は都市によって84%減から38%増まで幅があった。
対象: 23か国27都市の警察の記録 / 限界: 都市は欧州と南北アメリカに偏り、警察の記録には届け出られない犯罪の問題がある。
03よくある思い込みと、研究が示す実際
犯罪の増減は「悪い人が増えたか」だけでは決まりません。人の動き方が変われば、同じ社会でも犯罪の量は大きく変わります。
04日常で生かせる視点
犯罪のニュースを「人」の話としてだけでなく、「状況」の話としても読むと、見え方が広がります。
- 犯罪が増えた、減ったという報道を見たら、その時期に人々の暮らし方がどう変わったかも考えてみる。
- 裁判員として事件の経緯を聞くときは、本人の性格だけでなく、その時と場所でどんな条件が重なったかにも目を向ける。
- 被害にあった身近な人を「不注意だった」と責めず、犯罪は複数の条件が重なって起きるものだと受け止める。
05よくある質問
ルーティン・アクティビティ理論とは何ですか
罪を犯そうとする人、狙われやすい対象、守る人の不在の3つが、同じ時と場所にそろうと犯罪が起きるという考え方です。1979年に提案されました。
この理論は、罪を犯す人の動機を説明しますか
いいえ。この理論は動機より、犯罪が起きる状況や機会に注目します。なぜ罪を犯そうとするのかは、別の理論が扱います。
わかっていないことは何ですか
3つの条件をどう測るかは研究ごとに違い、理論の支持は「中程度」とまとめられています。コロナ禍の研究も、警察に届け出られない犯罪を数えられないという限界があります。
SOURCES
- Cohen, L. E., & Felson, M. (1979). Social Change and Crime Rate Trends: A Routine Activity Approach. American Sociological Review, 44(4), 588-608. https://doi.org/10.2307/2094589
- Pratt, T. C., & Cullen, F. T. (2005). Assessing Macro-Level Predictors and Theories of Crime: A Meta-Analysis. Crime and Justice, 32, 373-450. https://doi.org/10.1086/655357
- Nivette, A. E., Zahnow, R., Aguilar, R., et al. (2021). A global analysis of the impact of COVID-19 stay-at-home restrictions on crime. Nature Human Behaviour, 5(7), 868-877. https://doi.org/10.1038/s41562-021-01139-z


