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取り調べと冤罪最初に聞いた数字に判断が引っぱられる。アンカリングと量刑、プロの法律家でも起きるのか

刑の重さは、事件の事実と法律で決まるはずです。ところが心理学では、最初に見聞きした数字が、その後の判断を引き寄せることが知られています。これをアンカリング(係留効果)と呼びます。法律のプロでも、この影響を受けるのでしょうか。
SUMMARY
- 法律の判断でのアンカリングを調べた29の研究(93の効果量、8,549人)をまとめたメタ分析では、示された数字の方向に判断が引き寄せられていた。法律の専門家と一般の人のあいだに、はっきりした差は見られなかった。
- 経験のある法律家を対象にした実験では、求刑がサイコロで決められたと知っていても、あるいは自分でサイコロを振って決めても、その数字に量刑が引き寄せられた。
- 万引き事件の実験では、求刑が「保護観察3か月」か「9か月」かで、若手の法律家の量刑は平均約5か月と約7〜9か月に分かれた。
01どんな心の仕組みが働いているのか
最初に示された数字は「錨(いかり)」のように働き、人はそこから十分に離れられないまま判断を決めてしまいます。
量刑には「この事件なら何か月」という正解がありません。答えがはっきりしない判断ほど、手元にある数字が手がかりとして使われやすくなります。
研究者は、高い数字を見ると、その数字に合う「重く罰する理由」が頭に浮かびやすくなると考えています。実験でも、高い求刑を見た人ほど、被告に不利な理由を思い浮かべやすいことが示されました。
02研究でわかっていること
法律の判断でもアンカリングは起き、経験を積んだ法律家も例外ではありませんでした。ただし、どんな条件で強まるかはまだ研究の途中です。
Englichら(2006)[1]
経験のある法律家に、架空の事件の量刑を決めてもらった。求刑が関係のない人から示されたとき、でたらめに決められたと知らされたとき、さらに自分でサイコロを振って決めたときでも、量刑はその数字に引き寄せられた。専門知識や経験は、この効果を弱めなかった。
対象: 経験のある法律家 / 限界: 架空の事件資料を使った実験で、本物の裁判ではない。具体的な数値は要旨から確認できなかった。
EnglichとSoder(2009)[2]
163人に万引き事件の資料を読ませ、検察の求刑を「保護観察3か月」または「9か月」と示した。若手の法律家では、悲しい気分のとき平均4.85か月と7.44か月、楽しい気分のとき5.42か月と8.6か月で、どちらも求刑の方向に量刑が引き寄せられた。法律の知識がない人では、楽しい気分のときは差が見られなかった。
対象: ドイツの若手法律家と一般の人163人 / 限界: 架空の事件の実験で、参加者は法曹経験の浅い人が中心。
Bystranowskiら(2021)[3]
法律の判断でのアンカリングを調べた29の研究(93の効果量、8,549人)をまとめたメタ分析。対照群のある研究でも、示された数字の方向に判断が引き寄せられていた。法律の専門家と一般の人の差は統計的にはっきりせず、専門家がやや小さい傾向にとどまった。
対象: 29の研究 / 限界: 出版バイアス(目立つ結果ほど発表されやすい偏り)の可能性があり、効果の大きさは過大かもしれない。
03よくある思い込みと、研究が示す実際
「プロの裁判官なら数字に惑わされない」は思い込みです。経験を積んだ法律家でも、でたらめな数字に量刑が引き寄せられました。
04日常で生かせる視点
最初に聞いた数字が判断の出発点になっていないか、立ち止まって確かめる視点が役立ちます。
- ニュースで求刑と判決を見比べるとき、判決が求刑に引き寄せられている可能性も考える。
- 裁判員になったら、示された求刑を基準にせず、「この事実ならどのくらいか」を先に自分で考えてみる。
- 値段交渉や評価の場面でも、最初に出た数字が判断を引っぱることを知っておく。
05よくある質問
アンカリングとは何ですか
最初に示された数字が「錨」のように働き、その後の判断がその数字に引き寄せられる現象です。
裁判官もアンカリングの影響を受けますか
実験では、経験のある法律家でも、サイコロで決めた求刑に量刑が引き寄せられました。29研究のメタ分析でも、専門家と一般の人に、はっきりした差はありませんでした。
影響を減らす方法はありますか
まだはっきりした方法はわかっていません。メタ分析の著者らも、法律の場面で効果を打ち消す方法の研究が今後必要だとしています。
SOURCES
- Englich, B., Mussweiler, T., & Strack, F. (2006). Playing Dice With Criminal Sentences: The Influence of Irrelevant Anchors on Experts’ Judicial Decision Making. Personality and Social Psychology Bulletin, 32(2), 188-200. https://doi.org/10.1177/0146167205282152
- Englich, B., & Soder, K. (2009). Moody experts — How mood and expertise influence judgmental anchoring. Judgment and Decision Making, 4(1), 41-50. https://doi.org/10.1017/s1930297500000693
- Bystranowski, P., Janik, B., Próchnicki, M., & Skórska, P. (2021). Anchoring effect in legal decision-making: A meta-analysis. Law and Human Behavior, 45(1), 1-23. https://doi.org/10.1037/lhb0000438


