Case file
刑罰と更生「考え方を変える」更生プログラムは再犯を減らすのか。平均25%減の陰にある、大きな研究ほど効果が小さい問題

「刑務所で考え方を変える授業を受ければ、人は立ち直れるのか」。多くの国で、認知行動療法をもとにした更生プログラムが使われています。研究をまとめると効果は見えてきますが、調べ方によって大きさが変わることもわかってきました。
SUMMARY
- 58の研究をまとめたメタ分析では、プログラムを受けた人の1年以内の再犯率は平均30%で、受けなかった人の40%より25%低かった。
- 刑務所内の心理的な介入を調べた29のランダム化比較試験(9,443人)では再犯が減っていたが、参加者が50人未満の小さな試験を除くと、統計的にはっきりした差はなかった。
- 日本の刑務所の性犯罪再犯防止指導では、出所後3年以内の再犯率が受講群27.3%、比較対照群38.0%だった。ただし罪名によっては効果の裏付けが得られなかった。
01どんな心の仕組みが働いているのか
犯罪につながる「考え方のくせ」に気づき、別の考え方や行動を練習すれば、再犯が減るという考えに基づいています。
認知行動療法とは、ものの受け止め方(認知)と行動の関係に働きかける心理療法です。更生プログラムでは「相手が悪い」と決めつける考え方や、怒りを抑えにくいことなどを取り上げます。
グループで話し合い、場面を想定して練習するのが一般的です。日本の刑務所でも、性犯罪再犯防止指導などで、偏った認知を見直し、再犯しないための計画を作る指導が行われています。
02研究でわかっていること
平均すると再犯を減らす方向の効果が見られます。ただし、実施の質や対象者によって効果は大きく変わり、厳密な大規模試験では差がはっきりしないこともあります。
Landenbergerら(2005)[1]
大人と少年を対象にした58の研究をまとめた。12か月以内の再犯率は、比較群の平均40%に対し、プログラムを受けた群では30%で、25%の低下だった。再犯リスクが高い人を対象にしたもの、実施の質が高いもの、怒りのコントロールや対人問題の解決を含むものほど効果が大きかった。プログラムの「ブランド」による差は見られなかった。
対象: 58の実験・準実験研究 / 限界: ランダム化していない研究も含む。最も効果的な組み合わせの数字(52%低下)は条件がそろった場合の推定。
Beaudryら(2021)[2]
刑務所の中で行う心理的な介入を調べたランダム化比較試験29件(9,443人)をまとめた。全体では再犯が減っていた(オッズ比0.72)。しかし、介入群が50人未満の小さな試験を除くと、差は統計的にはっきりしなかった(オッズ比0.87)。研究者は、出版バイアス(効果が出た研究ほど発表されやすい偏り)で効果が大きく見えていた可能性を指摘している。
対象: 少年と大人の受刑者 / 限界: 出所後の地域での支援を含む介入は対象外。
法務省矯正局(2020)[3]
2012〜2014年に出所し、性犯罪再犯防止指導が必要とされた人を調べた。3年以内の再犯率は受講群27.3%、比較対照群38.0%で、再犯リスクの差を調整しても再犯の可能性は0.79倍だった。一方、強制わいせつや迷惑防止条例違反の人では、効果の統計的な裏付けは得られなかった。
対象: 受講群1,444人、比較対照群324人 / 限界: ランダム化比較ではなく、両群の違いを完全には除けない。
03よくある思い込みと、研究が示す実際
「更生プログラムは効かない」も「受ければ立ち直る」も言いすぎです。効果は平均すると中くらいで、中身と実施の質に左右されます。
04日常で生かせる視点
「効くか、効かないか」ではなく、「誰に、どんな質で行うと効くのか」という見方をすると、報道や制度の議論が読みやすくなります。
- ニュースで「プログラムで再犯が減った」と聞いたら、比較の相手と人数を確かめる。
- 裁判員として更生の見込みを考えるときは、プログラムが万能ではないことと、一定の効果があることの両方を思い出す。
- 身近な人の怒りや思い込みについて話すとき、性格ではなく「考え方のくせ」として扱うと、責めずに話しやすい。
05よくある質問
認知行動療法の更生プログラムとは何ですか
犯罪につながる受け止め方や行動のくせに気づき、別の考え方や対処を練習するプログラムです。グループワークで行うことが多いです。
どのくらい再犯が減りますか
58研究のメタ分析では、1年以内の再犯率が平均40%から30%へ、25%低下していました。ただし研究によって幅があります。
効果がないという研究もありますか
刑務所内の29のランダム化比較試験をまとめた2021年の研究では、小さな試験を除くと再犯の差は統計的にはっきりしませんでした。
SOURCES
- Landenberger, N. A., & Lipsey, M. W. (2005). The positive effects of cognitive–behavioral programs for offenders: A meta-analysis of factors associated with effective treatment. Journal of Experimental Criminology, 1(4), 451-476. https://doi.org/10.1007/s11292-005-3541-7
- Beaudry, G., Yu, R., Perry, A. E., & Fazel, S. (2021). Effectiveness of psychological interventions in prison to reduce recidivism: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. The Lancet Psychiatry, 8(9), 759-773. https://doi.org/10.1016/s2215-0366(21)00170-x
- 法務省矯正局成人矯正課・矯正研修所効果検証センター (2020). 刑事施設における性犯罪者処遇プログラム受講者の再犯等に関する分析結果. 法務省. https://www.moj.go.jp/content/001317461.pdf


