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集団と同調看守役になると人は誰でも残酷になるのか。スタンフォード監獄実験の再検証

1970年代はじめ、米国の大学の心理学部に作った模擬刑務所で、学生が看守役と囚人役に分かれました。看守役が囚人役を虐げ、実験は途中で中止されたと伝えられています。「役割を与えられれば人は誰でも残酷になる」。この有名な結論は、その後の再検証に耐えたのでしょうか。
SUMMARY
- スタンフォード監獄実験は、看守役による囚人役への虐待のため、6日で中止されたと伝えられている。
- 2019年の再検証は、実験の記録と参加者15人への聞き取りを調べた。看守役が囚人の扱い方について細かな指示を受けていたことなどを示した。
- 8日間の英国BBC監獄研究では、看守役は役割に一体感を持てず、権威をふるうのをためらった。囚人役にやがて立場を覆された。
01どんな心の仕組みが働いているのか
人は与えられた役割に自動的に染まるのではありません。その集団に一体感を持ち、目的を信じたときに、役割に沿って動きやすくなります。
スタンフォード監獄実験は、学生を看守役と囚人役にくじで分けた研究です。看守役の一部がひどい扱いを始め、「状況が人を変える」例として教科書に広く載りました。
しかし、研究者が看守役に「囚人に無力感を与える」といった方向づけをしていたことが、後に指摘されました。社会的アイデンティティ(自分をある集団の一員と感じること)の研究者は、役割そのものより、その集団や目的に一体感を持つかどうかが行動を左右すると考えています。
02研究でわかっていること
監獄実験には、研究者の指示や期待が結果に影響した疑いがあります。役割を与えるだけでは、人は自動的に残酷にならないとわかってきました。
Le Texier(2019)[1]
監獄実験の保管記録を調べ、元参加者15人に聞き取りをした。看守役が囚人の扱い方について細かな指示を受けていたこと、看守役は自分も研究の対象だと知らされていなかったことがわかった。データの集め方が偏っていて不完全だったことも示した。多くの教科書がこうした批判を載せていないと指摘している。
対象: 実験記録と元参加者 / 限界: 50年近く後の聞き取りで、記憶の正確さには限りがある。
ReicherとHaslam(2006)[2]
英国BBCの協力で、男性を看守役と囚人役にくじで分け、8日間観察した。看守役は役割に一体感を持てず、権威をふるうのをためらい、やがて囚人役に立場を覆された。参加者は平等な仕組みを作ったが、それがうまくいかなくなると、強権的な体制を作る動きへの抵抗が弱まった。
対象: 模擬刑務所の男性参加者 / 限界: 特別に作った施設での1回きりの事例研究で、一般化には限りがある。
HaslamとReicher(2012)[3]
監獄実験と服従実験を読み直した論文。研究者からの方向づけがあっても、看守役の全員が残酷にふるまったわけではなかった。ひどい扱いをした人は、自分から工夫して行動していた。著者らは、役割への受け身の同調ではなく、集団への一体感と積極的な関わりが鍵だと論じている。
対象: 既存研究の再解釈 / 限界: 新しいデータではなく、理論的な読み直しである。
03よくある思い込みと、研究が示す実際
「役割を与えれば誰でも残酷になる」は言いすぎです。看守役の全員が残酷だったわけではなく、研究者の方向づけもありました。
04日常で生かせる視点
ひどい行いを「状況のせい」だけで片づけず、誰がどんな目的や期待を示していたかに目を向けることが大切です。
- 施設内の虐待のニュースでは「環境が悪かった」だけで終わらせず、上に立つ人がどんな方針や期待を示していたかにも注目する。
- 裁判員として「役割上しかたなかった」という説明を聞くとき、同じ立場でも違う行動をとった人がいたかを考える材料にする。
- 職場で役割を任されたとき、その役割に何が期待されているかを自分の言葉で確かめ、納得できない点は口に出す。
05よくある質問
スタンフォード監獄実験とは何ですか
1970年代はじめに米国の大学で行われた研究です。学生を看守役と囚人役に分け、模擬刑務所で過ごさせました。看守役の行動がひどくなり、6日で中止されたと伝えられています。
監獄実験の結果は信頼できますか
2019年の再検証で、看守役が細かな指示を受けていたことなどが示されました。そのため、役割だけで人が変わった証拠とみるのは難しくなっています。
同じような研究はほかにありますか
英国BBCの協力で行われた監獄研究があります。8日間の観察で、看守役は役割に一体感を持てず、囚人役に立場を覆されました。
SOURCES
- Le Texier, T. (2019). Debunking the Stanford Prison Experiment. American Psychologist, 74(7), 823-839. https://doi.org/10.1037/amp0000401
- Reicher, S., & Haslam, S. A. (2006). Rethinking the psychology of tyranny: The BBC prison study. British Journal of Social Psychology, 45(1), 1-40. https://doi.org/10.1348/014466605X48998
- Haslam, S. A., & Reicher, S. D. (2012). Contesting the “Nature” Of Conformity: What Milgram and Zimbardo's Studies Really Show. PLoS Biology, 10(11), e1001426. https://doi.org/10.1371/journal.pbio.1001426


