Case file
集団と同調「被害者にも落ち度があった」と思ってしまうのはなぜか。公正世界仮説と、55研究が示した「小さく、条件つき」の効果

事件のニュースを見て、「でも、被害者にも落ち度があったのでは」と感じたことはないでしょうか。社会心理学では、この反応の一部を「世の中は公正であってほしい」という願いで説明してきました。ただし研究をまとめ直すと、この効果は思われてきたより小さく、条件がそろったときに強まるものでした。
SUMMARY
- 1966年の実験では、罪のない人が苦しみ続けると思った参加者ほど、その人の人柄を低く評価した。これが「公正世界仮説」の出発点になった。
- 2020年に55の効果をまとめた分析では、被害者を低く見る効果は平均で小さかった(d = 0.15)。古い研究ほど効果が大きかった。
- 効果が強まるのは、被害者に罪がなく、映像などで心が強く動く場面。「人は誰でも被害者を責める」とまでは言えない。
01 どんな心の仕組みが働いているのかなぜ罪のない被害者を責めてしまうのか?
人は「世の中は公正で、人はふさわしい目にあう」と信じたい気持ちを持つと考えられています。罪のない人の苦しみはこの信念をゆさぶるので、「本人にも原因があった」と考えて信念を守ることがあります。
この考えは「公正世界仮説」と呼ばれます。唱えたのは社会心理学者のメルビン・ラーナーです。
世の中が公正なら、努力は報われ、まじめに暮らす自分は守られます。この信念は、将来の計画を立てる支えにもなります。
ところが、何の落ち度もない人がひどい目にあうと、この信念が崩れかけます。助けられれば信念は保てます。助けられないとき、人は別の道を取ることがあります。それが「被害者のほうに原因があった」「そういう人だった」と考える道です。
大切なのは、これが意地悪から生まれるとは限らない点です。自分の世界の見方を守ろうとする、半ば無意識の反応だと考えられています。
02 研究でわかっていること被害者を低く見る効果はどれくらい強い?
55の効果をまとめた2020年の分析では、効果は平均で小さく(d = 0.15)、研究によって大きくばらつきました。映像などで心が強く動く場面ほど、効果は大きくなりました。
Lerner & Simmons(1966)[1]
女子大学生が、学習課題で間違えるたびに電気ショックを受けて苦しむ女性の様子を見た。その後も苦しみが続くと思い、自分では状況を変えられない参加者ほど、その女性の人柄を低く評価した。最も低く評価されたのは、参加者のために苦しんでいるように見えた場面だった。
対象: 米国の女子大学生 / 限界: 苦しむ女性は実験の協力者で、実際のショックはなかった。小規模で、1960年代の米国の大学という限られた状況の実験。
Hafer(2000)[2]
罪のない被害者の映像を見た直後、参加者は「正義」に関係する単語の色を答えるのに時間がかかった。信念への脅威が最も大きい条件で、この遅れが見られた。2つ目の実験では、脅威が大きい条件で、遅れが大きい人ほど被害者と距離を置き、被害者を低く評価した。
対象: 2つの実験 / 限界: 色の名前を答える速さという間接的な指標で、信念への脅威を推定している。
Dawtryら(2020)[4]
被害者を低く見る効果を調べた実験の効果55件をまとめると、平均の効果は小さかった(d = 0.15)。現実の出来事として、生々しく身近に感じられる形で見せる研究ほど効果が大きかった。ただし、そうした研究は古い年代に多く、年代の影響と区別できなかった。
追加の実験: オンラインの561人に、同じ事件を防犯カメラの映像か文章で見せた。映像で見た人は、被害者の人柄を相対的に低く評価した。続く801人の実験では、被害者に落ち度がない場合だけ、映像のほうが低い評価につながった。
Witte & Flechsenhar(2024)[5]
性被害を描いた架空の文章を読んだ142人の調査では、「世の中は一般に公正だ」と信じる強さと、被害者を責める傾向に正の相関があった(r = 0.23前後)。強さの目安は「弱から中程度」だった。「自分の身に起きることは公正だ」という信念では、相関は見られなかった。
対象: ドイツ語を話す142人のオンライン調査 / 限界: 相関の分析で、信念が原因だとは確かめていない。架空の文章への反応で、実際の事件への反応とは限らない。
03 よくある思い込みと、研究が示す実際「人は誰でも被害者を責める」は本当か?
言いすぎです。被害者を低く見る効果は平均では小さく、1980年以降の研究では結果が一貫しませんでした。罪のない被害者が目の前で苦しむような、心が強く動く条件で強まると考えられています。
04 日常で生かせる視点被害者を責めそうなとき、どう考えればいい?
「落ち度があったのでは」と感じたら、それが事実の判断か、自分の安心のための反応かを分けて考えると役に立ちます。とくに映像で心が強く動いた直後は、判断を少し待つのが一つの方法です。
- ニュースを見たとき: 「自分なら防げた」と感じたら、その考えが自分を安心させるためのものではないか、一度ふり返る。
- 裁判員になったとき: 生々しい映像や証拠を見た直後は、被害者への評価がゆがみやすい可能性がある。責任の判断は、事実と法律にもとづいて分けて考える。事件報道が判断に与える影響の研究も参考になる。
- 身近な人が被害にあったとき: 「なぜそこに行ったの」という問いは、本人を責める言葉に聞こえやすい。まず本人の話を聞くことを優先する。
周りの人がなぜ助けに入らないのかは傍観者効果の再検証で、有名な実験の再現性については服従実験のその後でも紹介しています。
05よくある質問
公正世界仮説とは何ですか?
社会心理学者ラーナーが唱えた考えで、人は「世の中は公正で、人はその人にふさわしい目にあう」と信じたい気持ちを持つ、というものです。罪のない人の苦しみはこの信念をゆさぶるため、人は被害者を低く評価するなどして信念を守ることがある、と説明します。
被害者を責めてしまうのは、性格が悪い人だけですか?
いいえ。初期の実験の参加者は、ごく普通の大学生でした。ただし信念の強さには個人差があり、ドイツ語を話す142人の調査では、公正世界を強く信じる人ほど被害者を責める傾向がありました。その関係は弱から中程度でした。
ニュースの映像を見ると、被害者を責めやすくなりますか?
可能性はあります。2020年の研究では、同じ事件を文章で読んだ人より、防犯カメラの映像で見た人のほうが、罪のない被害者の人柄を相対的に低く評価しました。心が強く動く場面ほど、信念を守る反応が起きやすいと考えられています。
SOURCES
- Lerner, M. J., & Simmons, C. H. (1966). Observer's reaction to the "innocent victim": Compassion or rejection? Journal of Personality and Social Psychology, 4(2), 203-210. https://doi.org/10.1037/h0023562
- Hafer, C. L. (2000). Do innocent victims threaten the belief in a just world? Evidence from a modified Stroop task. Journal of Personality and Social Psychology, 79(2), 165-173. https://doi.org/10.1037/0022-3514.79.2.165
- Hafer, C. L., & Bègue, L. (2005). Experimental research on just-world theory: Problems, developments, and future challenges. Psychological Bulletin, 131(1), 128-167. https://doi.org/10.1037/0033-2909.131.1.128
- Dawtry, R. J., Callan, M. J., Harvey, A. J., & Gheorghiu, A. I. (2020). Victims, vignettes, and videos: Meta-analytic and experimental evidence that emotional impact enhances the derogation of innocent victims. Personality and Social Psychology Review, 24(3), 233-259. https://doi.org/10.1177/1088868320914208
- Witte, L. P., & Flechsenhar, A. (2024). "It's your own fault": Factors influencing victim blaming. Journal of Interpersonal Violence, 40(9-10), 2356-2380. https://doi.org/10.1177/08862605241270030


