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なぜ人は罪を犯すのか人はなぜ「ちょっとだけ」ズルをするのか。正直者のズルの理論と、25か所の追試で消えた「十戒の効果」

テストの自己採点を1問だけ多めにつける。経費を少しだけ多めに書く。多くの人は、大きな罪は犯さなくても「ちょっとだけ」のズルには心当たりがあるかもしれません。ふつうの人がなぜ少しだけズルをするのか、研究で何がわかり、何が揺らいでいるのかを見ていきます。
SUMMARY
- 2008年の研究は6つの実験から、人は得をするのに十分なだけズルをしつつ、「自分は正直だ」と思える範囲にとどめると報告した。
- 4種類の実験課題を使った565の実験(選択の数4万4,050)をまとめたメタ分析では、ズルの多さは報酬の大きさや他人への影響などの状況と、性別や年齢などの個人の特徴の両方に左右されていた。
- 「十戒を思い出すとズルが減る」という2008年の結果を25か所・5,786人で追試したところ、主な分析では効果がほぼゼロで、向きも元の研究と逆だった。
01どんな心の仕組みが働いているのか
人は得をしたい気持ちと、「自分は正直な人間だ」と思いたい気持ちの間で揺れています。その両方を満たせる「少しだけ」のズルが選ばれやすい、という考え方があります。
この考え方は「自己概念の維持理論」と呼ばれます。自己概念とは、自分がどんな人間かについての思いのことです。大きなズルをすると「自分は正直だ」という思いが壊れてしまいます。そこで人は、その思いを保てる程度に、ズルを小さく抑えると考えられました。
研究者は、2つの仕組みを挙げました。1つは、その場で道徳の基準に注意が向いていないことです。もう1つは、自分の行いを都合よく分類し直せることです。たとえば「これくらいは誰でもやる」と考えると、ズルが正直の範囲に入ってしまいます。
02研究でわかっていること
ズルの多さは状況と個人の両方で変わります。ただし、ズルを減らす方法として有名だった結果の一部は、追試で確かめられていません。
Mazarら(2008)[1]
6つの実験で、人がズルをできる場面での行動を調べた。人は得をするのに十分なだけズルをしながら、自分の正直さを疑わずにすむ程度にとどめていた。道徳の基準への注意が向いていないこと、自分の行いを都合よく分類できることが、この「少しだけ」のズルを支えていると考えた。
対象: 6つの実験の参加者 / 限界: 中心の実験の1つは、のちの大規模な追試で再現されなかった。
Verschuereら(2018)[2]
元の研究の実験1では、十戒を思い出した人は、高校で読んだ本を思い出した人より、解けたと申告したパズルが1.45問少なかった。この実験を25か所・5,786人で、事前に決めた同じ手順で追試した。主な分析(19か所・4,674人)では、十戒を思い出した人のほうが0.11問多く申告し、効果はほぼゼロで向きも逆だった。
対象: 各国の25の研究室の参加者 / 限界: 追試したのは元の研究の実験1つだけで、理論全体を否定したものではない。
Gerlachら(2019)[3]
よく使われる4種類の実験課題(サイコロの目の自己申告、コイン投げ、パズル、相手へのメッセージ)を使った565の実験、選択の数4万4,050をまとめた。ズルの多さは、報酬の大きさや他人への影響などの状況と、性別や年齢などの個人の特徴に左右された。実験室の研究は実地の研究よりズルが多く、ほぼすべての指標で「出版バイアス」(はっきりした結果ほど発表されやすい偏り)の証拠が見られた。
対象: 4種類の実験課題を使った研究 / 限界: 課題によって結論が異なり、参加者の多様性も足りない。
03よくある思い込みと、研究が示す実際
「ズルをするのは一部の悪い人」という見方も、「道徳を思い出せばズルは防げる」という見方も、研究からは単純すぎることがわかります。
04日常で生かせる視点
「自分は正直だから大丈夫」と思うことこそ、小さなズルを見逃す入り口になりえます。
- 不正のニュースを見たら、特別な悪人の話と決めつけず、小さな言い訳の積み重ねがなかったかを考えてみる。
- 裁判員として「なぜこんなことを」と思ったときは、本人がどう自分を正当化していたかにも目を向ける。
- 「これくらいは誰でもやる」と思ったら、自分の行いを都合よく分類し直していないか、一度立ち止まる。
05よくある質問
自己概念の維持理論とは何ですか
人は「自分は正直だ」という思いを保てる範囲でズルをする、という考え方です。2008年の研究で提案されました。
道徳を思い出すとズルは減りますか
十戒を思い出すとズルが減るという結果は、2018年の大規模な追試で再現されませんでした。少なくともこの方法の効果ははっきりしません。
わかっていないことは何ですか
研究の多くは実験室での小さなズルです。実験室は実地よりズルが多く出る傾向があり、現実の不正や犯罪にどこまで当てはまるかは、まだわかっていません。
SOURCES
- Mazar, N., Amir, O., & Ariely, D. (2008). The Dishonesty of Honest People: A Theory of Self-Concept Maintenance. Journal of Marketing Research, 45(6), 633-644. https://doi.org/10.1509/jmkr.45.6.633
- Verschuere, B., Meijer, E. H., Jim, A., et al. (2018). Registered Replication Report on Mazar, Amir, and Ariely (2008). Advances in Methods and Practices in Psychological Science, 1(3), 299-317. https://doi.org/10.1177/2515245918781032
- Gerlach, P., Teodorescu, K., & Hertwig, R. (2019). The truth about lies: A meta-analysis on dishonest behavior. Psychological Bulletin, 145(1), 1-44. https://doi.org/10.1037/bul0000174


