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なぜ人は罪を犯すのか人はどうやって自分の悪い行いを正当化するのか。「道徳的離脱」の8つの仕組みと、27研究が示した攻撃との関係

悪いことだとわかっているのに、人はなぜ人を傷つけられるのでしょうか。心理学者バンデューラは、その答えを「良心のブレーキを外す理由づけ」に求め、「道徳的離脱」と名づけました。研究をまとめると、この正当化のくせは攻撃やいじめと中くらいの強さで結びついていました。ただし、ほとんどが相関の研究で、原因とまでは言い切れません。
SUMMARY
- 道徳的離脱とは、「仕方なかった」「相手が悪い」などの理由づけで、自分の行いへの良心のブレーキを外す心の働き。バンデューラは8つの仕組みに整理した。
- 8〜18歳の17,776人(27サンプル)をまとめたメタ分析では、道徳的離脱と攻撃の相関は r = .28 だった。いじめとの相関も r = .31 と同じくらいだった。
- 重い罪を犯した少年1,169人の追跡では、正当化が減った少年ほど反社会的な行動も早く減った。正当化は固定された性格ではなく、変わりうる。
01 どんな心の仕組みが働いているのか人はどうやって悪い行いを正当化するのか?
人はふだん、自分の基準に反する行いをすると自分を責めるので、悪いことを控えます。道徳的離脱は、この自分を責める働きを、理由づけによって選んで止めてしまう心の動きです。
この考えを唱えたのは、社会心理学者のアルバート・バンデューラです。人は「こうあるべき」という自分の基準を持っています。基準に反しそうになると、後ろめたさを予想して踏みとどまります。
ただ、このブレーキはいつも働くわけではありません。バンデューラは、ブレーキを外すための理由づけを、大きく4つの方向にまとめました[1]。
- 行いそのものを言い換える: 「正しい目的のためだ」(道徳的正当化)、「ちょっといじっただけ」のような婉曲な言い方、「もっとひどいことをする人もいる」という都合のよい比較。
- 自分の責任を薄める: 「上に言われたから」(責任の転嫁)、「みんなでやったから」(責任の分散)。
- 被害を小さく見る: 「たいしたことにはなっていない」と、相手への害を軽く見たり無視したりする。
- 相手に目を向ける: 「相手が悪い」と責任を相手に押しつける、相手を人間扱いしない(非人間化)。
バンデューラが強調したのは、多くの非人道的な行いが、ふだんは思いやりのある人たちによって行われてきた点です。仕事が細かく分けられ、責任が散らばるほど、一人ひとりはブレーキを外しやすくなると考えました[1]。
02 研究でわかっていること正当化しやすい人ほど人を傷つけやすいのか?
複数のメタ分析で、道徳的離脱が強い子どもや若者ほど攻撃やいじめが多いという、中くらいの強さの相関が見られました。ただし研究のほとんどが一時点の相関で、正当化が原因だとはまだ確かめられていません。
Gini, Pozzoli & Hymel(2014)[2]
8〜18歳の子ども・若者を対象にした27の独立したサンプル(合計17,776人)をまとめると、道徳的離脱と攻撃的な行動には正の相関があった(r = .28、95%信頼区間 .23〜.32)。相関は子どもより思春期の若者で大きかった。攻撃の種類や性別によって大きさは変わらなかった。
対象: 27サンプル・17,776人 / 限界: 正当化と攻撃を同じ方法で測った研究ほど相関が大きく出ており、測り方が数字を押し上げている可能性がある。
Killer, Bussey, Hawes & Hunt(2019)[3]
いじめの役割ごとに調べると、道徳的離脱はいじめる側と正の相関(r = 0.31)があった。被害を受ける側とはごく弱い正の相関(r = 0.08)、かばう側とは負の相関(r = −0.11)だった。ただ見ているだけの子との関係は見られなかった。
対象: 7〜19歳、47サンプル・43,809人 / 限界: 相関の研究をまとめたもの。著者らは、ネットいじめでは加害と被害の重なりが大きい点に注意をうながしている。
Zhao & Yu(2021)[4]
ネットいじめとの関係をまとめると、相関は r = 0.341 で中くらいの強さだった。大人のサンプル(r = 0.488)のほうが、若者のサンプルより相関が大きかった。
対象: 38の効果・38,425人(2005〜2021年の研究) / 限界: 含まれた38件はすべて相関の研究で、実験の研究は1件もなかった。大人のサンプルは5件だけだった。
Shulman, Cauffman, Piquero & Fagan(2011)[5]
重い罪(重罪)で有罪となった男子少年1,169人を追跡すると、道徳的離脱と犯罪はどちらも時間とともに減っていた。道徳的離脱が下がった少年ほど、本人が答えた反社会的な行動の減り方が速かった。冷淡で感情の動きが乏しい性格傾向の影響を差し引いても、この関係は残った。公式の記録で見た再犯の起こりやすさでも、同じ方向の関係があった。
対象: 重罪で有罪となった男子少年1,169人 / 限界: 観察の研究で、正当化を減らす介入を試したものではない。女子や一般の若者に当てはまるかは、この研究からはわからない。
Ogunfowora, Nguyen, Steel & Hwang(2022)[6]
職場の研究をまとめると、道徳的離脱は職場での不正と正の関連があった。この関連は、ことの善悪に気づきにくくなること、善悪の判断が甘くなること、不正の前に予想する罪悪感が低くなることを通じて説明できた。一方、不正をした後の罪悪感や恥とは、むしろ正の関連があった。
対象: 職場の道徳的離脱に関する研究のメタ分析 / 補足: 部下を攻撃するような上司や社内政治の強い職場は道徳的離脱を強める要因だったが、倫理的なリーダーや組織の公正さが抑える力は比較的弱かった。
03 よくある思い込みと、研究が示す実際悪いことをする人は良心がないのか?
そうとは限りません。道徳的離脱の考え方では、良心は持っていても、理由づけによってその場だけ働かなくなると説明します。実際、正当化しやすい人でも、不正の後の罪悪感は消えていませんでした。
役割や立場も、正当化の強さと関係していました。米国南部3州の刑務所の職員を比べた研究では、死刑の執行に直接かかわる担当者は、正当化、個人の責任の否認、相手の非人間化の得点が最も高く出ました。家族を支える役割の職員は、こうした理由づけを最も否定しました[7]。ただし一時点の比較なので、役割が人を変えたのか、もともとそうした人がその役割に就いたのかは区別できません。
04 日常で生かせる視点正当化に気づくには、何に注意すればいい?
8つの仕組みには、口ぐせのような決まった言い回しがあります。自分や周りの言葉にそれが出ていないかに気づくことが、ブレーキが外れかけているサインを見つける手がかりになります。
- 言い回しに気づく: 「みんなやっている」「言われたとおりにしただけ」「相手にも原因がある」は、それぞれ責任の分散・転嫁・相手への押しつけに当たる。自分の口から出たときは一度立ち止まる。
- ニュースの言葉を見る: 婉曲な言い方や、人を物や動物にたとえる言葉は、害を見えにくくする。報道や組織の発表で使われる言葉そのものにも注意を向ける。
- 集団の中の自分を見る: 仕事が細かく分けられた場では、一人ひとりが「自分の担当はここだけ」と感じやすい。全体として誰に何が起きているかを想像する習慣が、責任の分散への歯止めになる。
命令や役割が人をどこまで動かすのかは服従実験の再検証で、共感の弱さと攻撃の関係は共感と犯罪の研究で、いじめを止める子の研究はいじめの傍観者と擁護者で紹介しています。人が罪から離れていく過程は人はなぜ犯罪をやめるのかも参考になります。
05よくある質問
道徳的離脱とは何ですか?
心理学者アルバート・バンデューラが唱えた考えで、人がふだん自分の行いにかけている「良心のブレーキ」を、理由づけによって一時的に外してしまう心の働きを指します。行いを正しいものと言い換える、責任を他人に移す、被害を小さく見る、相手を責めたり人間扱いしなかったりする、といった方法があります。
正当化しやすい人は、罪悪感を感じない人なのですか?
そうとは限りません。職場の研究をまとめた2022年のメタ分析では、道徳的離脱の傾向は不正をする前に予想する罪悪感の低さを通じて不正と結びついていました。一方で、不正をした後の罪悪感や恥とは、むしろ正の関連がありました。正当化は、行動の前のブレーキを弱めても、後の罪悪感まで消すとは限らないと考えられています。
道徳的離脱は変えられますか?
重い罪を犯した少年1,169人を追った研究では、道徳的離脱が下がった少年ほど、自分で答えた反社会的な行動も早く減っていました。正当化の傾向は固定された性格ではなく、年齢や経験とともに変わりうるものだと考えられています。ただしこれは観察研究で、介入の効果を確かめたものではありません。
SOURCES
- Bandura, A. (1999). Moral disengagement in the perpetration of inhumanities. Personality and Social Psychology Review, 3(3), 193-209. https://doi.org/10.1207/s15327957pspr0303_3
- Gini, G., Pozzoli, T., & Hymel, S. (2014). Moral disengagement among children and youth: A meta-analytic review of links to aggressive behavior. Aggressive Behavior, 40(1), 56-68. https://doi.org/10.1002/ab.21502
- Killer, B., Bussey, K., Hawes, D. J., & Hunt, C. (2019). A meta-analysis of the relationship between moral disengagement and bullying roles in youth. Aggressive Behavior, 45(4), 450-462. https://doi.org/10.1002/ab.21833
- Zhao, L., & Yu, J. (2021). A meta-analytic review of moral disengagement and cyberbullying. Frontiers in Psychology, 12, 681299. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2021.681299
- Shulman, E. P., Cauffman, E., Piquero, A. R., & Fagan, J. (2011). Moral disengagement among serious juvenile offenders: A longitudinal study of the relations between morally disengaged attitudes and offending. Developmental Psychology, 47(6), 1619-1632. https://doi.org/10.1037/a0025404
- Ogunfowora, B. T., Nguyen, V. Q., Steel, P., & Hwang, C. C. (2022). A meta-analytic investigation of the antecedents, theoretical correlates, and consequences of moral disengagement at work. Journal of Applied Psychology, 107(5), 746-775. https://doi.org/10.1037/apl0000912
- Osofsky, M. J., Bandura, A., & Zimbardo, P. G. (2005). The role of moral disengagement in the execution process. Law and Human Behavior, 29(4), 371-393. https://doi.org/10.1007/s10979-005-4930-1


