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記憶と目撃証言衝撃的な出来事の記憶は正確なのか。9.11の記憶を10年追った研究が示した「確信は高いまま、中身は変わる」

大きな事件のニュースを聞いた瞬間、どこで誰と何をしていたか。「あの日のことは一生忘れない」と感じる人は少なくありません。ところが、同じ人に時間をおいて何度も尋ねた研究では、その記憶の中身は1年でかなり変わり、本人の確信だけが高いまま残っていました。
SUMMARY
- 衝撃的なニュースを知った瞬間の記憶は「フラッシュバルブ記憶」と呼ばれ、かつては写真のように変わらないと考えられていた。
- 9.11を経験した3,000人超の追跡では、11か月後に最初の回答と一致したのは平均63%。ふつうの記憶と同じように薄れていた。
- 違っていたのは確信の高さ。中身が変わっても「正確に覚えている」という感覚は10年間高いままだった。
01どんな心の仕組みが働いているのか
衝撃的な出来事の記憶が特別なのは、正確さではなく「正確だと感じる強さ」です。中身はふつうの記憶と同じ仕組みで薄れ、書き換わります。
1977年、心理学者のブラウンとクーリックは、ケネディ大統領の暗殺のような出来事を知った瞬間の記憶をフラッシュバルブ記憶と名づけました[5]。カメラのフラッシュをたいたように、その場面が焼きつくという意味です。
2人は、こうした記憶には特別な仕組みが働き、ほとんど変わらないと考えました[5]。しかし、この説は本人の「覚えている」という報告にもとづくもので、記憶が本当に変わっていないかは確かめていませんでした。
そこで後の研究者は、出来事の直後に記憶を書き留めてもらい、時間をおいて同じ質問をする方法をとりました。1回目と後の回答がどれだけ一致するか(一致度)を見る方法です。スペースシャトル・チャレンジャー号の事故を題材にしたナイサーらの研究などがこの方法の初期の例で、多くの研究が時間とともに一致度が大きく下がることを示しました[5]。
02研究でわかっていること
9.11の記憶を追った研究では、一致度は最初の1年で大きく下がり、その後は横ばいでした。感情の記憶はさらに不正確で、確信だけは高いままでした。
Talarico & Rubin(2003)[1]
9.11の翌日に、デューク大学の学生54人が「事件を知った瞬間」と「最近のふつうの出来事」の記憶を書き留めました。後日比べると、2つの記憶の一致度に差はなく、どちらも時間とともに下がっていました。ところが、鮮明さや「正確だ」という確信が下がったのは、ふつうの出来事の記憶だけでした。
対象: 大学生54人。1週後・6週後・32週後のいずれかに再調査 / 限界: 1つの大学の学生のみで、人数も少ない。著者らは「特別なのは正確さではなく、正確だと感じることだけ」と結論づけている。
Hirst ら(2009)[2]
米国7都市の3,000人超が、事件の1週間後、11か月後、35か月後に答えました。11か月後に1回目と一致した回答は平均63%で、35か月後は57%でした。1年目以降は忘れる速さがゆるやかになりました。「知ったときどう感じたか」の一致度は42%(11か月後)と、記憶全体の一致度(63%)よりも低い数値でした。それでも確信の評価は5段階で4.41と高いままでした。
対象: ボストン、ニューヨーク、ワシントンなど7都市の住民や学生。全員が3回すべてに答えたわけではない / 限界: 一致度は「最初の回答との一致」であり、事実としての正確さそのものではない。
Hirst ら(2015)[3]
同じ調査を事件の119か月後(約10年後)まで続けました。一致度は最初の1年で急に下がり、その後は10年たってもほとんど変わりませんでした。確信は10年間ずっと高いままでした。いったん生じた食い違いは、訂正されるより同じ形で繰り返される傾向がありました。報道への注目度や、事件について話した量、感情の強さなど5つの要因は、いずれも10年後の一致度を予測しませんでした。
対象: 1回目の調査の回答者のうち、11・25・119か月後の追跡に答えた人 / 限界: 10年後まで答え続けた人は1回目の回答者の一部に限られる。
Sharot ら(2007)[4]
事件の約3年後、当日マンハッタンにいた24人が脳の活動を測りながら記憶を思い出しました。現場から平均約3.3km(2.08マイル)にいた人では、9.11の記憶を思い出すときだけ扁桃体(感情にかかわる脳の部位)が選択的に働きました。平均約7.3km(4.53マイル)離れた場所にいた人では、この違いは見られませんでした。
対象: 当日マンハッタンにいた24人 / 限界: 人数が少なく、記憶の正確さではなく「思い出す体験の強さ」と脳活動の関係を調べた研究。
03よくある思い込みと、研究が示す実際
「強く心に残った記憶は正確」「感情は一番よく覚えている」という思い込みは、追跡研究では支持されませんでした。変わった記憶も本人には本物に感じられます。
04日常で生かせる視点
記憶の鮮明さや確信の強さは、正確さの保証になりません。自分の記憶も他人の証言も、「確信」と「中身」を分けて受け止めるのが研究にもとづく見方です。
- 「はっきり覚えている」という感覚と、記憶の中身が合っているかは別のものだと考える。研究では、確信が高いまま中身が変わっていた。
- 裁判員などで証言を聞くときは、話し方の自信より、出来事の直後の記録と内容が一致しているかに目を向ける。最初の確信と後の確信の違いは、目撃証言の確信と正確さの記事で詳しく扱っている。
- 家族や友人と「あの日」の記憶が食い違っても、どちらかが嘘をついていると決めつけない。強いストレスや後から聞いた情報で記憶が変わる仕組みは、ストレスと目撃者の記憶や誤情報効果の研究でも示されている。
なお、強い感情を伴う記憶がまったく役に立たないわけではありません。10年たっても多くの人が「あの日の記憶」を持ち続けていました[5]。研究が示したのは、記憶が消えないことと、中身が変わらないことは別だという点です。
05よくある質問
フラッシュバルブ記憶とは何ですか?
大きな出来事のニュースを最初に知った瞬間の状況(どこで、誰から、何をしていたか)についての、鮮明で自信のある記憶のことです。1977年にブラウンとクーリックが、写真のフラッシュにたとえて名づけました。
鮮明に覚えている記憶ほど正確なのでしょうか?
研究では、鮮明さや確信は正確さの目安になりませんでした。9.11の研究では、ふつうの出来事の記憶と同じ速さで一致度が下がったのに、鮮明さと確信だけは下がりませんでした。
記憶が変わっていても、本人は嘘をついているのですか?
嘘ではありません。本人は変わった後の記憶を本当だと信じています。10年の追跡では、いったん生じた食い違いは、その後も同じ形で語られ続ける傾向がありました。
裁判の証言にも関係がありますか?
直接の目撃とは条件が違うため、そのまま当てはめることはできません。ただし、強い感情を伴う記憶でも確信の高さだけで正確さを判断できない、という点は目撃証言の研究とも共通しています。
SOURCES
- Talarico, J. M., & Rubin, D. C. (2003). Confidence, not consistency, characterizes flashbulb memories. Psychological Science, 14(5), 455-461. https://doi.org/10.1111/1467-9280.02453
- Hirst, W., Phelps, E. A., Buckner, R. L., et al. (2009). Long-term memory for the terrorist attack of September 11: Flashbulb memories, event memories, and the factors that influence their retention. Journal of Experimental Psychology: General, 138(2), 161-176. https://doi.org/10.1037/a0015527
- Hirst, W., Phelps, E. A., Meksin, R., et al. (2015). A ten-year follow-up of a study of memory for the attack of September 11, 2001: Flashbulb memories and memories for flashbulb events. Journal of Experimental Psychology: General, 144(3), 604-623. https://doi.org/10.1037/xge0000055
- Sharot, T., Martorella, E. A., Delgado, M. R., & Phelps, E. A. (2007). How personal experience modulates the neural circuitry of memories of September 11. PNAS, 104(1), 389-394. https://doi.org/10.1073/pnas.0609230103
- Hirst, W., & Phelps, E. A. (2016). Flashbulb memories. Current Directions in Psychological Science, 25(1), 36-41. https://doi.org/10.1177/0963721415622487


