Case file
集団と同調話し合えば意見はまとまって穏やかになるのか。集団極性化と、模擬陪審で判断が極端になった実験

何人かで話し合えば、偏った意見はならされて、穏やかな結論に落ち着く。そう考える人は多いでしょう。ところが心理学では、話し合いのあとに意見がかえって極端になる現象が、数多く確かめられてきました。裁判の評議にも関わるこの現象を見ていきます。
SUMMARY
- 模擬陪審の実験では、8件の交通事件のうち話し合った事件だけ、判断が極端になった。有罪らしい事件はより厳しく、無罪らしい事件はより寛大になった。
- 考えの近い人どうしの話し合いの実験では、話し合いのあと意見がより極端になり、グループ内の意見の幅も狭まった。匿名で書いた意見でも同じだった。
- 1986年のメタ分析では、他の人の意見を知るだけの効果がr=.44、説得力のある論拠を聞く効果がr=.75と報告されている。
01どんな心の仕組みが働いているのか
話し合いでは、多数派の方向の論拠をたくさん聞き、周りの意見の位置も知ります。この二つが重なり、意見はもとの方向へ強まります。
これを「集団極性化」と呼びます。極性化とは、意見が両端のどちらかへ寄っていくことです。グループがもともと少し慎重なら、より慎重に。少し厳しければ、より厳しくなります。
理由は二つ考えられています。一つは、多数派の方向の論拠が多く出て、新しい理由を聞くうちに確信が強まること。もう一つは、周りの意見を知り、「自分も同じか、少し先を行きたい」と位置を調整することです。
02研究でわかっていること
集団極性化は多くの実験で確かめられ、模擬陪審でも起きました。論拠の影響と、他の人の意見を知る影響の両方が働いています。
MyersとKaplan(1976)[1]
参加者は8件の架空の交通事件について判断し、その半分を小グループで話し合ってから、もう一度判断した。有罪らしい事件を話し合うと、より有罪寄りで刑も重くなった。無罪らしい事件を話し合うと、より無罪寄りで刑も軽くなった。話し合わなかった事件では、この変化は見られなかった。
対象: 模擬陪審の実験参加者 / 限界: 架空の事件で、実際の陪審や裁判員裁判とは異なる。
Schkadeら(2010)[2]
政治的な考えが近い人どうしで話し合う実験を、リベラル派と保守派でそれぞれ行った。どちらも話し合いのあと意見が極端になり、グループ内の意見の幅は狭まった。匿名で書いた個人の意見も、極端で似通ったものになった。
対象: 考えの近い市民のグループ / 限界: 政治的な話題での実験で、刑事裁判の評議ではない。
SieberとZiegler(2019)[3]
これまでの研究を整理し、1986年のメタ分析の結果を紹介した。他の人の意見を知るだけの効果はr=.44、説得力のある論拠の効果はr=.75だった。さらに学生を対象に3つの実験(147人、163人、80人)を行い、考える余裕や意欲が少ないときは周りの意見の影響が、多いときは論拠の影響が強まることを示した。
対象: ドイツの大学生 / 限界: 学生の実験室研究。
03よくある思い込みと、研究が示す実際
話し合いは意見をならす働きばかりではありません。考えの近い人どうしだと、かえって極端になりやすいのです。
04日常で生かせる視点
話し合いで結論が強まったときは、「新しい根拠が出たのか、周りに合わせただけか」を一度ふり返ると、極端さに気づきやすくなります。
- ネットで同じ意見ばかり見ていると、自分の考えが強まりやすいと知り、反対の立場の記事も一つ読んでみる。
- 裁判員として評議に加わるときは、最初の多数派と違う見方の論拠も、意識して口に出してみる。
- 家族や職場の話し合いでは、結論を出す前に「反対の理由を挙げる係」を一人決めておく。
05よくある質問
集団極性化とは何ですか
グループで話し合ったあと、メンバーの意見が、もとの傾向と同じ方向へより極端になる現象です。
なぜ話し合うと意見が極端になるのですか
多数派の方向の論拠を多く聞くことと、周りの意見を知って自分の位置を調整することの、二つが働くと考えられています。
裁判の評議でも起きますか
模擬陪審の実験では、話し合った事件だけ判断が極端になりました。ただし実際の裁判員裁判で同じ大きさで起きるかは、はっきりしていません。
SOURCES
- Myers, D. G., & Kaplan, M. F. (1976). Group-Induced Polarization in Simulated Juries. Personality and Social Psychology Bulletin, 2(1), 63-66. https://doi.org/10.1177/014616727600200114
- Schkade, D., Sunstein, C. R., & Hastie, R. (2010). WHEN DELIBERATION PRODUCES EXTREMISM. Critical Review, 22(2-3), 227-252. https://doi.org/10.1080/08913811.2010.508634
- Sieber, J., & Ziegler, R. (2019). Group Polarization Revisited: A Processing Effort Account. Personality and Social Psychology Bulletin, 45(10), 1482-1498. https://doi.org/10.1177/0146167219833389


