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刑罰と更生独りきりの拘禁は心に何をもたらすのか。13研究・38万人のまとめが示した症状の悪化と、出所後の自殺リスク1.78倍

刑務所の中で、1日22時間以上ひとりで独房に入れておく。このような独居拘禁は、心にどんな影響を残すのでしょうか。13の研究、のべ38万人あまりをまとめたレビューは、独居拘禁を経験した人では気分の落ち込みや敵意などの症状が中くらいの強さで多いと結論づけました。一方で「普通の受刑と差がない」とした研究もあり、論争が続いてきました。
SUMMARY
- 13研究・約38万人を調べたレビューで、独居拘禁を経験した人は、経験していない受刑者より心の症状のスコアが高かった。5研究4,517人のまとめの効果量は0.45で、中くらいの差にあたる。
- 米国ノースカロライナ州の約23万人の追跡では、独居拘禁を経験した人は出所後1年以内に亡くなるリスクが1.24倍、自殺に限ると1.78倍だった。ただし観察研究で、因果関係までは示していない。
- コロラド州の1年間の追跡研究は「独居拘禁で特に悪化はしなかった」と報告したが、方法に批判が多い。対象者の96%は米国の人で、期間や条件による違いはまだよくわかっていない。
01 どんな心の仕組みが働いているのか独居拘禁とは、どんな状態のこと?
独居拘禁は、受刑者を1日22〜24時間、小さな独房に閉じ込め、人との関わりをほとんど断つ処遇です。人との接触、刺激、体を動かす機会がまとめて奪われる点が、普通の受刑と違います。
呼び方は国や施設によってさまざまで、懲罰のための隔離、保護のための隔離、超厳重警備(スーパーマックス)などをまとめて指します[1]。独房では、教育や職業訓練、面会、運動、心のケアを受ける機会も大きく減ります[1][2]。
独居拘禁が心をむしばむという指摘は古くからあります。19世紀のドイツの医師たちは、独房に入れられた人に現れる心の反応をくわしく記録していました。1983年には米国の精神科医グラッシアンが、独房に入れられた14人の症状を報告し、ひとつの症候群として区別できると主張しました[5]。
- 人との接触がない: 職員や他の受刑者との会話が、ほぼなくなる。
- 刺激がない: 狭い部屋で、見るもの・聞くものが限られる。
- することがない: 作業や学び、運動の機会が少なく、1日の大半を何もせずに過ごす。
2015年に改訂された国連の被拘禁者処遇最低基準規則(ネルソン・マンデラ・ルールズ)は、独居拘禁のはっきりした定義を初めて示し、約2週間を超える長期の独居拘禁をやめるよう求めています[2]。
02 研究でわかっていること独居拘禁で、心の症状はどれくらい増える?
複数の研究をまとめると、独居拘禁を経験した受刑者は、気分の落ち込みや不安、敵意、現実感の乱れといった症状が、経験していない受刑者より中くらいの強さで多くなっていました。
Luigi, Dellazizzo, Giguère ほか(2020)[1]
独居拘禁の影響を、経験していない受刑者と比べた13の研究をまとめた。5研究のメタ分析では、心の症状全体の差は効果量0.45(中くらい)だった。気分(不安と落ち込み)は0.41、現実感の乱れなどの精神病の症状は0.35、敵意や攻撃性は0.38で、いずれも小さめから中くらいの差があった。自傷のリスクは、研究によって1.56倍から6.89倍高かった。
対象: 13研究、のべ382,440人(約23%が独居拘禁を経験)。96%が米国、残りはデンマークとカナダ / 限界: 研究の数が少なく、設計もまちまち。独居拘禁の期間のデータがそろわず、何日で害が出るかはわからない。出所後の死亡を2研究でまとめた分析は、増える傾向にとどまり、統計的に意味のある差にはならなかった。
Brinkley-Rubinstein, Sivaraman, Rosen ほか(2019)[2]
2000〜2015年にノースカロライナ州の刑務所から出所した人を、死亡記録と照らし合わせて追跡した。独居拘禁を経験した人は、経験していない人と比べて、出所後1年以内に亡くなるリスクが1.24倍だった。自殺は1.78倍、他者からの暴力による死は1.54倍、再び収監されるリスクは2.16倍だった。
対象: 229,274人(のべ約39万回の収監のうち33.7%で独居拘禁あり) / 限界: 観察研究のため、心の病気の診断や独居拘禁に入った理由など、測れていない違いが結果に影響している可能性がある。年齢や前科、心のケアの記録などは統計的に調整している。
Kaba, Lewis, Glowa-Kollisch ほか(2014)[3]
ニューヨーク市の拘置所で、医療記録から自傷行為を調べた。独居拘禁を含む収容は全体の7.3%にすぎなかったが、自傷行為の53.3%、命に関わりうる自傷の45.0%がこの中で起きていた。性別、年齢、重い精神疾患、収容期間などをそろえても、独居拘禁は自傷と結びついていた。
対象: 2010年1月〜2013年1月の244,699件の収容 / 限界: 拘置所の医療記録の分析で、自傷しやすい人が独居拘禁に入れられやすかった可能性は完全には除けない。
O'Keefe, Klebe, Metzner ほか(2013)[4]
米国コロラド州で、独居拘禁、一般の居室、特別な支援の施設にいる男性受刑者に、1年間定期的に心の症状の質問紙に答えてもらった。どのグループも症状は少しずつ良くなり、独居拘禁のグループだけがより悪化するという予想どおりの結果は出なかった。
対象: 精神疾患のある人とない人を含む男性受刑者 / 限界: 著者ら自身が、害が起きるかどうかを決めるには追試が必要だと述べている。同じ研究の報告書版は、後のレビューで、症状の質問を専門家が行っていないことなどから、証拠の質が低いと評価された[1]。
03 よくある思い込みと、研究が示す実際独居拘禁の害は、もともとの心の弱さのせい?
それだけでは説明できません。もともと心の病気がある人を除いて分析すると、独居拘禁と症状の結びつきはむしろ強くなりました。一方で、独居拘禁を経験した人の多くが重い精神病を発症するわけではありません。
ただし、良くならないこと自体が害だという見方もあります。デンマークの未決拘禁の研究では、ほかの受刑者が時間とともに改善したのに、独居のグループは落ち込みや不安が高いままでした[1]。刑務所という環境が人をどう変えるかの古典的な実験はスタンフォード監獄実験の再検証で、刑務所に入ること自体と再犯の関係は刑務所に入ると再犯は減るのかで紹介しています。
04 日常で生かせる視点独居拘禁のニュースは、どう読めばいい?
「害がある・ない」の二択ではなく、どれくらいの期間、どんな条件で、誰と比べたのかを見ることが大切です。研究はまだ少なく、ほぼ米国に限られるという限界も知っておくと役に立ちます。
- 比べる相手を確かめる: 研究が問うのは、独居拘禁でない普通の受刑者と比べて、さらに悪くなるかどうかだ[1]。
- 期間と条件を見る: 何日間か、面会や運動はできたかで影響は変わりうる。期間ごとの害を確かめた研究はまだ足りない[1]。
- 出所後まで考える: 独居拘禁の経験は、出所後の自殺や再収監のリスクとも結びついていた。罰の影響は、刑務所を出たあとにも続く可能性がある[2]。
精神疾患と犯罪の関係そのものについては、「精神疾患の人は危ない」は本当かも参考になります。
05よくある質問
独居拘禁は、心にどんな影響がありますか?
13研究をまとめたレビューでは、独居拘禁を経験した受刑者は、経験していない受刑者より、気分の落ち込みや不安、敵意、現実感の乱れなどの症状が多くなっていました。差の大きさは平均で中くらいでした。自傷のリスクも研究によって1.56〜6.89倍高くなっていました。
独居拘禁は何日から害になるのですか?
まだわかっていません。期間のデータがそろっている研究が少ないためです。国連のネルソン・マンデラ・ルールズは、約2週間を超える長期の独居拘禁をやめるよう求めています。ノースカロライナ州の研究では、14日を超える独居拘禁や、くり返しの独居拘禁で、出所後のリスクがさらに高まる可能性が示されました。
独居拘禁は刑務所の秩序を保つのに役立つのですか?
はっきりした裏付けは少ないとされています。レビューの著者らは、独居拘禁が施設内の規則違反を減らせなかったとする研究や、かえって増やした可能性を示す研究を挙げています。秩序の効果を確かめた研究自体が足りないと指摘されています。
独居拘禁が害を生むことは証明されたのですか?
強い結びつきは示されていますが、因果関係の証明までは至っていません。受刑者をくじ引きで独居拘禁に割り当てる実験は倫理的にできないため、研究はすべて観察研究です。レビューの著者らも、因果関係を確かめる研究がさらに必要だと述べています。
SOURCES
- Luigi, M., Dellazizzo, L., Giguère, C.-É., Goulet, M.-H., & Dumais, A. (2020). Shedding light on "the hole": A systematic review and meta-analysis on adverse psychological effects and mortality following solitary confinement in correctional settings. Frontiers in Psychiatry, 11, 840. https://doi.org/10.3389/fpsyt.2020.00840
- Brinkley-Rubinstein, L., Sivaraman, J., Rosen, D. L., Cloud, D. H., Junker, G., Proescholdbell, S., et al. (2019). Association of restrictive housing during incarceration with mortality after release. JAMA Network Open, 2(10), e1912516. https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2019.12516
- Kaba, F., Lewis, A., Glowa-Kollisch, S., Hadler, J., Lee, D., Alper, H., et al. (2014). Solitary confinement and risk of self-harm among jail inmates. American Journal of Public Health, 104(3), 442-447. https://doi.org/10.2105/AJPH.2013.301742
- O'Keefe, M. L., Klebe, K. J., Metzner, J., Dvoskin, J., Fellner, J., & Stucker, A. (2013). A longitudinal study of administrative segregation. Journal of the American Academy of Psychiatry and the Law, 41(1), 49-60. https://europepmc.org/article/MED/23503176
- Grassian, S. (1983). Psychopathological effects of solitary confinement. American Journal of Psychiatry, 140(11), 1450-1454. https://doi.org/10.1176/ajp.140.11.1450


